園だより
9月2日
夏の日
今年の夏は晴れの日が長続きせず、熱帯のスコールのような激しい雨が降り、暑さや湿気だけがとても厳しい夏になってしまいました。長い夏休みに子どもたちは園から離れ、自分たちの思い出作りに励んだことと思います。子どもたちが居なくなった園庭やヤギ小屋は急に声がなくなった世界に変身してしまいました。そのかわり、セミが園の主役に取って代わったように毎日、大合唱を繰り広げていました。ヤギの白ちゃんもヤギ小屋から脱走を繰り返し、ヤギ小屋の周りを全力で走り回り、大きく成長してきました。
数年前の夏休み、卒園生のMちゃんが園へやってきました。もうそのとき彼女は19歳になっていたのですが、その数年前から高校へは登校拒否をしていて通ってはいませんでした。幼稚園時代の彼女は心が優しく、動物付きで、非常に性格が良かったように記憶していました。そんな彼女が高校という組織に自分の居場所を見つけられず、苦悶していることはお母さんから聞いていましたが、「Mちゃんよく来たね、今、ヤギの世話をしているから終わったら話そうね。」と動物当番を続けました。ヤギ小屋を掃きながら彼女の様子を伺うと、ヤギやニワトリを見つめている目は幼稚園時代の彼女の目と何ら変わりがないことに気付き、彼女の心の安定を感じとり安心しました。しばらくの間、ヤギを撫でたりヤギの仕草をじっと見つめたりしながら声は出してはいませんでしたが彼女なりにヤギとの対話を楽しんでいるようにも見えました。
その夏彼女は、足繁く園に来ては動物たちと対話し、私に不安に思っている感情や自分の将来についての迷いなどを話していきました。その都度、一歩踏み出すことで周りの景色が変わること、そして、いっぱい、いっぱい悩んでいいんだと話しました。実際、彼女はもうそのときには一歩を踏み出していると思われたので、今のままでいいんだとも話しました。幼稚園時代の彼女を取り戻すため、その夏と動物たちは、ゆっくりとした時間を私と彼女に与えてくれました。
2学期になって子どもたちが園に戻ってきます。友だちとの生活から自分自身を知り、あそびの中から自分一人ではないことを感じ、共感することで生きている喜びを思い、動物たちとの対話を通して優しさの感情をより以上に育んでいってもらいたいと思っています。「みんなちがって、みんないい。」それぞれが理解し合えたとき、子どもたちの生活がより充実することを願っています。Mちゃんは今年の夏も園へやってきました。彼女はまだ見ぬ将来の景色を語っていったようです。私は会うことが出来ませんでしたが、「もう大丈夫」そんな感情が私の心に温かい何かを運んでくれました。
園長 木都老克彦
